「LED光源水耕栽培システム」
さて、数年間という間があいてしまいましたが、MakerFaireTokyoで展示していた水耕栽培について軽くまとめました。
LEDで野菜を作ろうとしたきっかけ
以前、ベランダで家庭菜園を始めたのですが、かなり悲しい感じに失敗しました。家庭菜園、それもプランターで作るならば、基本放置でもそこそこのものが栽培できるはずです。ですが、失敗しました。毎日ベランダに出てチェックするマメさがありませんでした。
また、ベランダの環境も良くなかったです。排ガスと室外機とガス給湯器の温風が当たる状況では植物は順調に育ちません。
それならば、デスク横やリビングに置いておけば毎日チェックできるし、環境的にも安定してよいのでは?と思ったのですが、屋内のため十分な光源がありません。観葉植物ならばなんとかなるのかもしませんが、葉野菜などの太陽光が大量に必要な野菜は厳しそうです。
そこで、野菜工場など、屋内で栽培されている野菜についてその条件を少し調べてみました。さらに、屋内で栽培するならば、土耕で管理するのも大変なので、水耕栽培で出来ないだろうかと調べる範囲を広げてみると、意外な野菜まで水耕栽培で栽培されているのが分かりました。
野菜工場とは
温度と湿度、二酸化炭素量などを制御し、安定的に野菜を栽培する工場です。無農薬やスケジュール通りに生産・出荷ができるので、大手飲食チェーンで採用される事が多いようです。ですが、やはりコストが自然環境に比べて高いため、一般には広く流通しにくく、店頭で買えるのはキノコ類や、もやし、カイワレ等のみです。(特にキノコ類は工場生産比率が高いようです。)
今回作るもの
というわけで、家庭菜園の失敗を糧に屋内家庭菜園を作ってみたいと思います。
- LED光源
- 水耕栽培
- 最適化条件の模索
光源を調べよう
さて、家庭菜園ならばコストを気にせず作れるため、野菜にとっての最適解を探してみる事としました。光とスペクトルについてですが、太陽光のスペクトルと葉緑素の吸収スペクトルは違います。
第2章 豊かなくらしに寄与する光 2 光と植物-植物工場:文部科学省
また、水耕栽培や野菜工場について、先行文献を調べてみました。論文を検索し、斜め読みしながら使えそうなものを探してみると、下記のいくつかが使えそうです。
人工光型植物工場における赤青LEDと蛍光灯使用時の植物成長および消費電力の評価
LEDの選定
上記の資料から、必要なスペクトルが450nm近辺と660nm近辺ということが大体わかりました。そしてこのLEDを探してみると、意外と少ないです。例えば市販の赤色LEDを普通に検索すると620~640nmがヒットします。今回はコストを気にせず最適解をとりあえず作ってみる方針なので、こつこつと波長が合うLEDを探しました。そして下記の二種類で製作してみることにしました。
・3W POWER LED (青色LED) 445nm~450nm 50~60lm
www.sengoku.co.jp
・OSR7CA5111A (赤色LED) 660nm
akizukidenshi.comまた、赤色と青色の比率は10:1~5:1が最適のようなので、lmでLEDの個数を合わせてみました。
作ってみた
さっそく上記のLEDを用意して一枚板に並べ、POWER LEDは中央に配置して作ってみました。
POWER LEDのドライバはCL6807を使いました。ゆくゆくはPWM制御で光量を調整し、成長度合いを最適化したいためです。
ロガーを準備
さて、作っただけでは面白くないので、育成状況と環境状態を記録し、最適な育成条件を調べるための基礎データ収集を始めようと思います。
植物だったらCO2センサーも必須でしょう。上記の論文にも記載がありましたし。また、温度・湿度も同時に取りたいため、下記センサーを選定しました。
・CO2センサー
MH-Z19
・温湿度センサー
BME280
そして、これらのセンサーをRaspberryPiでコントロールし、測定データをクラウドにアップロード&グラフ化を行うようにしました。
センサーのコントロール&アップロードについては下記サイトが参考になるため、ここでは接続など詳しくは記載しません。
参考:
arms22.blog91.fc2.comクラウドについてはこちらを利用しました。グラフ化の他、CSV形式でダウンロードも可能となります。
thingspeak.com実際のデータはこちら
作った野菜
購入すると高額で、なかなか手に入らないものとして空芯菜を選定しました。各種ハーブ類でもよかったのですが、量が取れて嬉しいものとして葉物野菜としました。たまたま空芯菜を育てましたが、この品種は水耕栽培に適した水辺の植物で元気よく成長しました。また、複数回収穫できる野菜であり、長期に渡る水耕栽培試行に適していました。
同じシステムを用い、翌年には山葵の水耕栽培にチャレンジしましたが、水温コントロールシステムの用意が間に合わず、枯らしてしまいました。
おわりに
取りあえず動くだけは動きましたが、最適化はまだまだです。育成条件の可視化もできていません。可視化できれば、「スペクトルがずれたLEDでも栽培できるのか」や「光量が足りているか」また「400μs周期(デューティー比1:2)で照射は十分という説」の検証もできます。(光合成は電気反応ではなく化学反応のため、400μs周期の点滅で十分だという説)
また、気温・水温コントロールを追加し、山葵の水耕栽培にリベンジしたいです。